浦部忠志

浦部の罪は許されるものではありません。 
そして、おそらくそのことを誰よりもわきまえていたのは浦部本人だったように思われます。 
浦部が知っていたのは自分がしのぶを殺したとか、洋子を川原に捨てたとかいう事実にとどまらないでしょう。もっと、本質的な自身の罪深さを、彼はおそらく誰よりも理解していたのではないでしょうか。



浦部忠志というキャラクターは、作中で二回「憎む」という言葉を使用します。これはディスク版、NP版の双方で確認できます。 
一つは校長室の会話で、もう一つは最後の電話で。 
最後の電話で浦部校長は素性を隠して主人公(探偵くん)に電話を掛けてきます。 

その電話で、主人公は尋ねます。 
「あなたは一体(誰です)!?」 
浦部は答えます。 
「あの善人面した浦部を、心から憎んでいる男だ」 

物語を事件の側面からのみ見るならば、この台詞はカムフラージュに過ぎないでしょう。浦部は捜査の目が日比野に向く前に事件を終わらせなければなりませんでした。浦部と金田源治郎の間に関係をねつ造し、浦部に決定的な疑いの目を向けさせた上で、早く自身の死を表沙汰にしなければいけなかったのです。 
そうして、浦部の悪評をタレコミをする上で「浦部を憎んでいる男」という肩書きはベストに近いでしょう。 
くだんの台詞を事件サイドから見るならば、このような計算によるものとなるはずです。 

けれど、私は敢えて踏み込みたい。 

このテキストの前編で、私は「浦部は悪人ではない」と述べました。 
浦部校長は犯罪者に染まりきってはいなかったはずです。あるいは息子のためと開き直ってしまえる人間ではなかったはずです。 
もし浦部が上述のような人間であったなら、例えば彼は田崎をスケープゴートに仕立てたでしょう。ですが、浦部が田崎に罪を着せた事実はありません。むしろ田崎の無罪の証明に尽力していると言えます。 
この一例だけ考えても浦部は基本的に善悪を判断するだけの正気を保っていたように思われます。 
校長が正気をもって自己の行いを振り返った時、彼の目に「浦部忠志」はどう映ったことでしょうか。 
最後の電話の台詞こそが、その答えではないでしょうか。 

浦部は15年の間で殺人事件に深く関わりました。しかも被害者のうち二人は自分の学校のなんの罪もない生徒です。にもかかわらず、表向きの浦部校長は周囲からも尊敬されるような「善人面」で振る舞い続けている……。 
例えその善人面がより浦部の本質に近いものだったとしても、浦部本人にはあまり意味のないことだったに違いないでしょう。自分の息子が関わった時点で、浦部はその本質を貫けなかったからです。 
そんな自身を浦部は見つめ続けていたのです。憎しみと呼ぶほどの感情で。 
けれど、自らを憎むほどに罪深さを理解していながら、浦部はやはり最後に息子を選びます。 
この時の浦部の心中は察するに余りあるものです。 
ただ、「心から憎んでいる」というその言葉は、浦部の本心が吐露した言葉だったのではないかと推測することしかできません。 
  

浦部が使ったもう一回の「憎む」は次のような文脈の中で使われています。 
「犯人よりも、その罪を憎みます」。 
罪を憎んで人を憎まず。 
校長らしいといえば、らしい台詞です。 
日比野を浦部が憎めるはずもありません、これは詭弁のようにも聞こえます。 
けれど、どうか考えていただきたいのです。 
自らを憎んだ浦部。 
その浦部忠志にとって一連の事件の「罪」は誰にあったのか。 
ここまでお付き合いくださった皆様には、私の示唆するところは自明であろうと思います。


以上が、私が浦部忠志というキャラクターについていま語れるすべてです。 
ここまでお読みいただいて、浦部をどう思うかは、皆様にお任せいたします。 
やはり愚かだと思うか、それとも憎めない人物だと思うか、他にもetc.etc.... 

このテキストを最後までお読み下さったこと、心から感謝いたします。ありがとうございました。
 
 

Jul.2002