浦部 忠志

浦部校長には浦部校長なりの事情がありました。浦部校長はただの悪人ではなかったはず。それは前述の通りです。 
けれど、事情があったからといって、あんなことをして良かったのでしょうか? 
彼の行いは許されるものだったのでしょうか? 

答えは否でしょう。 

どのような理由があったにせよ、浦部のしたことは許されるレベルのものではありません。 


具体的に、浦部は浅川しのぶの遺体を隠し、洋子の遺体を川に捨てています。そうすることで日比野の犯罪を隠したのです。作中では明言されていませんが、しのぶの直接の死因は浦部の過失による可能性が高いでしょう。 
あるいは、もし事故の直後にしのぶを病院へ運んでいたなら、しのぶは死ななかったかもしれません。加えて金田事件の段階で日比野とともに自首していれば、15年後の事件は起こらなかったに違いないのです。 

我が子が可愛いのはわかります。しかし、だからといってこんなことをして良いはずがないでしょう。 
洋子にだって親はいました。しのぶにだっていたでしょう。洋子やしのぶの親もまた、我が子は可愛かったはずなのです。 

人の親は浦部だけではないのです。 
  

一方で、浦部は最後にすべての罪をかぶって自ら命を絶っています。 
これで、彼の罪は償われたといえるのでしょうか? 
これもまた否ではないでしょうか。 
浦部は確かに、最後に自ら命を絶っています。 
ですが、そのことを償いとは受け止められないように思います。 

法の裁きを受けず、独りよがりでことを終わらせていることもさりながら、浦部に限って言えばその死は元より償いが目的ではないためです。 
浦部の死の目的もまた、息子をかばうためだったことは疑いようもないからです。 

浦部校長の立場からすれば、自らの死によって事件を終わらせる可能性は決して低くなかったでしょう。 
金田源治郎との繋がりがないという欠点はあっても、浦部は犯人しか知らないことを知っている人物です。 
遺書に書かれた事件の流れは可能な限り事実に即していたものになっていて、話に無理もありません。 
五郎に金を渡したことは、浦部の犯行だと捜査陣に匂わすに十分な伏線になったでしょう。 
また、浦部自身も知らなかったはずですが万年筆という物証も存在しています。 
惜しむらくは、しのぶの遺体とともに日比野の事件への関与を示す証拠品を埋めてしまっていたことでしょう。日比野に関わる品々がなければ、浦部はしのぶの遺体の隠し場所も明らかにしていたに違いありません。 
そこまですれば、すべては浦部の犯行と確定したのではないでしょうか。 
  

死をもって償うという意識が浦部に全くなかったと言うつもりはありません。 
償うつもりも、きっと存在したでしょう。 
けれど、少なくとも償いは浦部が死を選ぶ第一位の理由ではなかったでしょう。 
もし本気で償いを考えたなら、日比野の犯行が隠されることはなかったはず。 
むしろ、浦部は自らの死によって事件を闇に葬ろうとしたのです。 
  

浦部の望みは日比野の犯罪を隠し通すこと、そしておそらく、日比野が犯した罪を忘れてくれることだったように思います。 
そのために浦部は罪を犯しました。許されないだけの犯罪を、です。 
そして、その犯罪に対しても浦部は償ったと言えません。 
浦部は、許されないことをしたのです。 
  

そして、そんな自身を浦部本人はどう思っていたのでしょうか。
 


Jul.2002

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