一体感 1

 全く個人的な話になりますが、私がファミ探をプレイする切っ掛けになったのは「消えた後継者」のテレビCMでした。一番最初に興味を持った要因は、主人公が記憶を失った状態から始まるというその設定であったと思います。 

 記憶喪失という言葉は斬新さといい、インパクトといいファミ探を語る上では外せない言葉でしょう。「消えた後継者」の魅力の大きな要素をこの設定が担っていることは間違いありません。 

 さて、記憶喪失という要素は単にストーリー上の設定として生きているだけでなく、テレビゲームというメディアにおいてはプレイヤーとの一体感を高めることにも役立ったと思われます。プレイヤーにとっては、ゲームの中の世界や、主人公の周りの人々というのは未知の存在です。自分が操作する主人公自体が未知の存在でもあります。 

 ごく普通の状況であれば、作中で主人公は少なくとも自分自身のことくらいはわかっているはずです。しかし、ファミ探の主人公にとっては、彼を操るプレイヤー同様、自分自身のことさえ未知のものなのです。 

 ゲームのスタート段階において、その世界の中で右も左も分からないのは主人公もプレイヤーも同じです。 
  

 しかしながら、──ここから先は本当に私の私的な話になりますが──、その一体感を最後まで維持しつづけることは難しかったというのが正直な感想です。


その最大の原因は「おもいだす」というコマンドにあると考えます。 
  

 「おもいだす」というコマンドは、とても粋なコマンドです。「うしろに立つ少女」のほうの、ただ「考える」というコマンドと比較すると、いかにも記憶喪失という設定が良く生かされていて独創的ですし、このコマンドだけでも「消えた後継者」に十分な魅力を与えていると思います。思いますが、こと、プレイヤーと主人公との一体感という問題においては、阻害要因となっていると考えられるのです。 
  

 平たく言ってしまいましょう。 
 主人公は作中で自分の過去をどんどん「思い出す」わけですが、プレイヤーは彼の過去を「初めて知る」のです。 

 

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  Dec.2000